産業保健に関するご案内

産業保健相談員の部屋 - 最新エントリー

産業保健相談員 菅 弘康(臨床心理士)

この秋、仙台の地は「ノムさんコール」で盛り上がっていましたが、結局野村監督 は解任のよう。彼は「大事な一戦を前に、とても事に向き合う気力を削がれて」と、 述べていました。報道をそのまま鵜呑みには出来ませんが、それにしても何故もっと 話し合い、両者が気持ちよく納得するに至らなかったのでしょうか?  

 企業に勤める皆さんも、あるいは周りで似たようなことが見られていませんか。 「調子が悪いんです」と訴えて、相談員の前に登場した彼は、「異動で今のポジショ ンにきたが、それ以降意欲がもてなくて」と。 さらに話は、「自分は前の処で失敗したわけではないし、もう少し続けてみたかっ た。それがここに来て、会社は自分を低い評価しかしていないのでは・・」と、不満 気でした。 一方、彼の上司に会ってみると、「彼には期待して来てもらったのに残念です」と。 両者の話を聴いた私は、『共者の言葉足らず』が、マイナス効果を生んでいたと見 えるのでした。 彼は彼で、理に叶わないと思うことを直接向き合って「何故僕をここに移したので すか」と問い質すことが出来なかったかです。 上司の方も「君は前の処で成果を上げてくれて有り難う。君の持っている可能性を 広げてもらいたいから、ここは初めての場だが、頑張ってもらいたい。期待する人材 だから」と、丁寧に言葉をつけ加えていたら、と。 パソコン全盛の今、将棋の駒のごとく人を動かすことは出来ても、人の心までは動 かせないのではないでしょうか。 互いが向き合うことは、確かに勇気がいることです。でも、そこから解決の足がか りが見い出せるのではないでしょうか。 山梨は信玄公の地。「人は石垣、人は城」であったはずです。

産業保健相談員
中村 幸枝(エヌ心理研究所(有)所長)

 

入社2年目、Yさん24歳。明るい性格で口数は少ないが真面目に仕事に取り組んでいた。製造部に所属し黙ってもくもくと仕事をしていた。一ヶ月前から、元気が無く落ち込みミスも多くなっていた。つい先日もイライラからか、段ボウルを蹴ったり、持っている工具をカいっぱい叩いてみたり、その様子に同僚たちは恐怖さえ覚えていた。「怖い」「様子おかしい」「何か不気味」との声が周りからもあり、上司も状況を把握していく中「何かあったのかな」と気にかけ上司も声をかけている。何の応答も無いが、仕事を離れると、仲の良い友達にと会い、毎晩のように外に出かけているという。会社から相談室へ連絡が入り、来談してもらう事になった。(産業医が留守の為)


〈相談室にて〉
うつむき加滅で上司(2人)に連れられ来室。
椅子に座ってもうつむき加減で、何度か声掛けをするが応答なし。絨黙状態が続いていた。かなり時間が経過した頃、「今何時ですか?」「5時です」と言うと、「仕事やりかけなので帰ります」とケロッとした表情で言うが、帰る気配は無くて動こうとはしなかった。このまま社に返すことは周りの人への影響も懸念されることから(他害)上司と相談し家族へ連絡を取り来室してもらった。
母親や上司が部屋に入るとすごく大きな声を出し暴れ、母親は外に飛び出してしまった。
母親の了解を得、上司も同行し病院に連れて行くが心療内科では一言も喋らず、「紹介状を書くので精神科に行ってください」と言われ2つの精神科を紹介され紹介状を母親に渡されたが病院に行くのを拒み、頑固として動かないので、そのまま家に送り届け親の監護(病院に行くことも)とした。(産業医は海外にて、事後報告)


〈見解〉
職業的負荷と密接な関連を持って発症する若年層を中心とする病型は、昨今の社会状況が関係しており、企業においても早急な対応が必要になる。
Yさんにおいては、
1、職場外での行動は退却がない
2、仕事場では「元気が無く」「ミスも多い1「ほとんど口を利かない」「攻撃的になる」
3、 友人からの情報によると、「こうなったのは会社が悪い」と他責、「いつもと同じ様子で変わったところは無い」と。
4、家族からの情報を得る中で、「この頃、風邪のような症状で元気が無かったが毎晩のように外に出かけている」「私たちとは普通に話はしている」との事だった。
以上により、この場合も抑うつ状態はあるので専門医(精神科医)の関与が必要となるが、ディスチミア親和型(気分変調症)の可能性があると思われる。産業医のところへ行くように指示をする。産業医の所へ行かない場合には、「産業医のところに行くことが会社の規則である」と告げると共に、管理監督者が産業医のところへ行く。このケースの場合、医師の診断書を指示した。
このように「うつ病」の各型(タイプ)についても考えていく必要がある。その為には、うつ病に対する概念を理解し、多様性を持つうつ病の各型を考えることにより、より適切な対応となる。産業医を通し主治医との連携が必要となる。
うつ病の分類


1、内因性うつ病(単極性・双極性)
2、身体因性うつ病(症候性・薬剤・器質性)
3、心因性うつ病.

産業保健相談員(メンタルヘルス担当)
浅川 理(峡西病院院長)


「新型うつ病」という言葉を耳にしますが、産業精神保健の従事者はご存知でしょうか?これは「うつ病」治療の基本とされる、充分な休息と薬物療法、そして精神療法だけでは改善がはかばかしくなく、職場での対応に従来とは違ったものが必要な一群を総称しているもののようです。今のところ精神科医は実際の臨床ではあまり使用しない言葉なのですが、どのような特徴をもつのでしょうか?

従来典型的な「うつ病」の性格傾向は、几帳面、仕事熱心、過剰に規範的で秩序を愛し、他者配慮的であるとされてきました。会社人間とか揶揄されつつも、尊ばれた日本人的心性ですね。しかし、それほど規範的ではなく、むしろ規範に閉じ込められることを嫌い、職場でうつ病を呈する若年層がみられるようになってきました。自分自身への愛着が強く漠然とした万能感はあり、規範はストレスと感じる。ストレス状況で疲弊し申し訳ないと感じるよりも、回避して他者を非難したり、「うつ病」であることを積極的に受け入れ、強化する傾向も指摘されています。
例えば、「うつ症状になったのは自分の能力を発揮できる環境を整備しないからだ」とか、「うつ病に理解がない上司では治るものも治らない」とか、適切な対応をされていても主張し続けるというようなケースでしょう。休職中なら趣味には嬉々として没頭できるのに、いざ仕事となると「今ひとつ・・・」というような場合です。こう書くと「甘えたただのいい加減なやつ」となってしまいそうですが、人格障害の診断にあてはまるかというとそうもならない一群なのです。ディスチミア(気分変調症)親和型うつ病というのが専門家の呼称で、そもそもうつ病とは何なのか、治療的に何が有効なのかが議論されているところです。
産業医が「うつ状態」或いは「うつ病」という診断書を見ると、原則にそった対応から始めるのはやむを得ないのですが、この「新型うつ病」ばかりでなく、その背景には、うつ状態を呈する適応障害、人格障害、統合失調症や薬物依存など種々の病態が含まれている場合があるので、それぞれのケースに応じて対策を講じていく必要がありそうです。職場でうつ病が啓発され対処されてきた結果、あらたな取り組みが必要とされるようになったわけですから、「新型」を恐れることなく、また病んでいるその人を非難することにはならないよう対処していきましょう。

産業保健相談員
井上勝六(クリニックいのうえ)(産業医学担当) 


(井上勝六 著 『脳で食べる』丸善(株)より)


 国民栄養調査によると現在の日本人は、カルシウムがやや少なめという点を除けば満足すべき栄養状態にあります。しかし、これはあくまでも国民の平均であって、個別となると話は別です。例えば、成人のメタボリック症候群や生活習慣病、ヤセ願望による若い女性の低栄養状態、子どもたちの個食(孤食)や欠食(朝食)による心の未発達など、さまざまな問題が指摘されます。もちろん個々人の責任もあるでしょうが、これらは同時に効率や利便性を優先してきた文明社会の落し子とも言えましょう。

 ファストフードや加工食品、健康食品など食の世界でも文明化は進み、家庭を中心に営まれてきた食が消えつつあります。このような潮流に対する異議や反省から、世界的にスローフード運動が提唱されるようになりました。これは、新鮮な食材を昔ながらの料理方法で楽しみながらゆっくり食べようという運動ですが、スローフード協会のカルロ会長は「環境に関心のないグルメは愚か者だが、かといって、食に関心のないエコロジストは、それはただ退屈なだけだ」と述べて.います。おいしい食べものが口に入るためには、人材や自然環境などそれを供給するシステムが不可欠で、人間と自然との共生がこれからの最重要課題となりましょう。地域の伝統食を見直し、そこから見える人間の営みや文化を大切にすることは、栄養学的にも医学的にも、さらには地球環境から見ても理に適ったものです。自らの生活を振り返り、食の原点に立ち返ったとき、私たちの今後の進むべき道が見えてくるでしょう。
 人間は生きるために食べてきましたが、ただ何でも口に入れてきたわけではありません。人間にはもともとおいしいものを食べたいという本能(遺伝子)があり、その欲求に基づいた食行動の結果が私たちの命を支えてきてくれました。また、解剖学的にも生理学的にも、おいしいものを効率よく取り込むようなシステムができています。しかし、これはモノの少ない飢餓線上を生きていた時代に当てはまっても、現在のようなモノと情報の氾濫する時代には、注意しないと過食や偏食などによる弊害が避けられません。「体に通じる道」は胃を通りますから、それぞれの人の年齢やライフスタイルに合った「胃の道」の交通整理は欠かせません。正しい知識が必要となりますが、そこで重要なのは膨大な食情報の中から何を選ぶかです。納豆がいいとか寒天がいいとかの情報はもちろん大切ですが、しかしそれらを個別に取り出しても混乱するばかりです。何をどのように食べたらよいのか、文法では主語・.述語が基本になるように、食では主食・副食のバランスが基本となります。本書では食の歴史や文化、医学や栄養学など、「おいしい」をキーワードにできるだけ広い視野から「食文法」の骨格が見通せるよう記してみました。
 まず第Ⅰ章「おいしさを求めて」では、おいしさを求めた内外の故事からうま味の発見を述べ、ダシ文化を支える昆布を通して日本のスローフードの一端にふれます。
 第Ⅱ章「おいしさの生理」では、味を感知するシステムとおいしさとの関係を述べ、おいしいものを食べることが人間の生存に不可欠であったことを明らかにします。
 第Ⅲ章では日常茶飯と伝統食の重要姓にふれ、主食の穀類や副食の野菜などの植物性食品の持つ意味を考えます。主食・副食の日常食がしっかりしていれば、基本的には栄養が不足することはなく、しいてサプリメントを摂る必要はありません。だいいち、サプリメントはお世辞にもおいしいものではありませんし、時には危険なことさえもあります。
 第Ⅳ章では、人間は生きるためだけでなく、食べるためにも生きてきたことを述べます。「鯛も一人はうまからず」で、おいしいものを食べる喜びは、親しい人と一緒に食べればさらに増します。「心に通じる道も胃を通る」わけで、食べものには人々の心を結びつける「心の栄養」もあります。近年、個食(孤食)やバラバラ食などが増加し、共食の機会の減少によって、命の大切さや他を思いやる心を学ぶ機会は減りました。人間存在の原点である共食の減少は、自ら家畜になるという自己家畜化現象、あるいはサル社会への退行現象とも言えましょう。哺乳動物の食の始まりは母乳栄養ですが、他の哺乳動物と違って人間のそれは、心の成長にも不可欠な様々な働きを持っています。呆食とか亡食とか言われる今こそ、共食の意味を考えるために母乳栄養を問い返す必要があります。
 団樂のおいしい家庭料理は、「今日の簡単主義と、ものぐさ主義が、商業料理へと追いやってしまって、家庭の料理は破滅に陥ったのである」と、美食家の北大路魯山人が述べたのは昭和二八年でした。
それから五〇年以上を経た今、本書がこれからの食を考える一助になれば幸いです。

産業保健相談員
雨宮 隆浩(特定社会保険労務士)


 「ワーク・ライフ・バランス(以下、WLBと省略)」という言葉から、皆さんは何を連想するでしょうか。WLBをそのまま訳せば、「仕事と生活の調和」ということになりますので、育児や介護に限った話ではなさそうです。

 では、WLBはどこまでを対象として、あるいは範囲としているのでしょうか。「WLBとは、老若男女誰もが、仕事、家庭生活、地域生活、個人の自己啓発など、様々な活動について、自ら希望するバランスで展開できる状態である。」と解説されており、仕事、家庭生活、地域生活、自己啓発、休養(健康)の五つを人生の各場面において、バランスさせることと理解できます。
 即ち、WLBのバランスとは、仕事のウエイトが高い時もあれば、育児のウエイトが高い時もあり、あるいは休養のウエイトが高い時があってもよく、決して一律なものではなく、必要な時に必要に応じて必要なバランスで活動することと解釈できます。
 したがって、何から手を付けたらよいかですが、労働時間整備が最優先であり、生産性の向上(業務の効率化)とともに仕事以外の時間とのバランスを実現することが不可欠です。