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 日本人は「食」ということに特に執着があります。「旨い」もののために東奔西走、 なければ海外から取り寄せる。最近のデパートの地下では多種多様な惣菜がそろえられ、イベント会場では、 全国各地の物産展が開かれています。テレビでは毎日のようにグルメの番組が流され、新聞の折り込みチラシには 『日帰り○○食べ尽くしツアー』。毎日の食物に困る事なく、選ぶことができる。これは幸せなことですね。
 我々の食生活は、開国後から現在、特に戦後...そうですね経済成長期とともに急速に変化しつつ、 だがその変化の勢いは未だ衰えを知らない。これは、提供側の日進月歩の技術革新によってもたらされています。
 ここからは、少し違った視点より最近の食生活を見直していきます。肩の力を抜いてご覧下さい。

メタボリックシンドローム(内臓肥満症候群)を予防する食生活


メタボリックシンドローム
厚生労働省は、増え続ける医療費の削減のために、「高齢者の医療の確保に関する法律」をつくり、平成20(2008)年度からメタボリックシンドロームなどの健診を40-74歳の人々に行って、「異常」と判定された人に保健指導を行おうと計画しています。保健指導の中心は食事指導です。厚労省の押し進める食事指導がどんなものかはっきり判りませんが、おそらく2005年の食事ガイドラインに沿って進めることになるでしよう。
メタボリックシンドロームという言葉はすでにお聞きになっていると思います。厚労省が行おうとしている内蔵脂肪症候群の判定基準は図の通りです。「内蔵脂肪症候群」は内蔵脂肪の蓄積(腹囲で代用)、耐糖能異常(空腹時血糖値で代用)、脂質代謝異常(高中性脂肪血症、低HDLコレステロール血症)、および高血圧という4つの危険因子を併せた病態をいいます。これらの症状を併せもつと、動脈硬化性疾患(心筋梗塞・脳梗塞など)が起こりやすくなるというものです。厚労省の判定基準では、腹囲が一定値(男85、女90cm)以上で他の3項目(高血圧、脂質異常、高血糖)のうち2つ以上が当てはまれば内臓肥満症候群、1つあるものをその予備軍に分類することになっています。
この言葉が使われる前には、主としてアメリカで「シンドロームX」、「死の四重奏」、「インスリン抵抗性症候群」という言い方が使われていました。アメリカで提唱されたこれらの症候群の概念はいずれも動脈硬化性疾患の根底に高インスリン血症(=インスリン抵抗性→糖尿病)が存在するという考え方でした。

日本人の糖尿病と欧米人の糖尿病日本人に糖尿病が急増しています。しかし、日本人の糖尿病は欧米人の糖尿病とは大きく違います。日本では最初から多少ともインスリンの分泌が衰えて糖尿病になりますが、欧米では高インスリン血症を経て糖尿病になるケースがほとんどです。欧米の肥満者はその多くが高インスリン血症を示します。インスリンは脂肪をため込むホルモンですから、その分泌が増えると肥ります。内蔵に脂肪がたまると遊離脂肪酸によってインスリンの働きが悪くなりますから、さらに多量のインスリンが必要となって分泌が増え、ますます肥ります。こうして、肥満→インスリンの働きが悪くなる(インスリン抵抗性)→インスリンの分泌増加→肥満という悪循環が始まります(図)。
そしてついには膵臓のインスリン分泌細胞が疲弊して分泌増加の要請に応えられなくなって相対的にインスリンが不足するようになります。これが欧米人の糖尿病です。しかし、高インスリン血症を経て糖尿病になる日本人はほとんどいません。日本には反って、痩せている糖尿病患者が多いですね。
昔からの日本人の食事は「穀物+大豆+野菜(+魚)」でしたから、今風にいえばベジタリアンに近い食事でした。日常的にこのような食事をしている人は成人型の糖尿病(2型糖尿病)になりません。平安時代の太政大臣・藤原道長(966-1028年)の糖尿病はよく知られていますが、道長は「この世をばわが世とぞ思ふ」と自ら詠むほどの権力者で美食家でした。
膵臓のランゲルハンス島という器官にある細胞がインスリンを分泌します。日本人にはランゲルハンス島が小さくさらに数も少なくて、欧米人に比べてインスリンの分泌が少ないという特徴があります。日本人は古来、インスリンをあまり必要としない穀物中心の食生活を送ってきました。「ご飯(糖質)をたくさん食べればインスリンがたくさん要るのではないか」と誤解する人もいますが、糖質中心の食生活ではインスリンは少量で足りるのです。糖質が多いとインスリンの働きが非常によくなるからです。ですから、日本人は2000年以上にわたって少ないインスリンで何の不都合もなく過ごしてきたのです。肉や脂肪を食べるとインスリン必要量が格段に増えます。インスリン分泌の少ない日本人が、肉や脂肪をたくさん食べるようになる(糖質の摂取量が少なくなる)と、インスリンが相対的に不足して糖尿病になってしまうのです。
くどいようですが、もう一度上図をご覧ください。現在の欧米人は基本的に肉食です。乳製品もたくさん食べます。したがってインスリンの分泌が増えます。インスリンが多くなると肥ります。アメリカには腹回りが180センチを越えるかと思われる男女がたくさんいます。お腹に脂肪がたまるとインスリンの働きが悪くなります。そこで膵臓のランゲルハンス島が張り切ってさらに多量のインスリンを分泌します。これが高インスリン血症です。
このような肉食→肥満→インスリン抵抗性という悪循環を断ち切るには生活を思い切って穀物(糖質)中心の食生活に変えなければなりません。
欧米でも植物由来の食品を中心に生活している人たち(ベジタリアン)には糖尿病が少ないことが知られています(参考文献)。いくつかの臨床試験で2型糖尿病患者の食事をベジタリアン食にすると、血糖管理が容易になり、心血管系の病態が改善することが知られています。これから、メタボリックシンドローム(内蔵肥満症候群)の予防に向けて「日本人の食生活」を考えてみましょう。
参考文献
Frazer GE. Vegetarianism and obesity, obesity, hypertension, diabetes, and arthritis. In Diet, Life Expectancy, and Chronic Disease. Oxford University Press, 2003, p. 129-148.

何を食べるかは個人の自由
世の中には「あれを食べるな、これを食べよなんて余計なお世話だ。食うことが生き甲斐だ。どうなってもいいから旨いものを食いたい」という人がいます。当然です。何を食べるかは個人の勝手です。他人がとやかく口を出す筋合いのものではありません。病気になることを承知のうえで「好きなものを好きなだけ食べる」という方には「どうぞご存分に」と申し上げるほかありません。
あなたが物事をわきまえた大人なら何を食べたって勝手ですが、あなたのお子さんに「好きにしろ」はいけません。子ども(中学生まで)の食事は保護者(親)が責任をもつべきです(図)。

安全な食事とは何か
日本人の食生活の基本は古来、「穀物+大豆+野菜(+魚介類)」でした。日本人は、過去1000年以上にわたって、コメをはじめとするデンプン(糖質あるいは炭水化物)が主成分の穀物に支えられてきたのです。
日本人が何世代にもわたって自らの身体で安全性を確認してきた食事が安全な「日本人の食事」です(図)。この食事に見合うように日本人の身体が変化・適応してきたのです。穀物を中心とするこのような「日本人の食事」を「粗食」と呼ぶ人がいます。この食事はたしかに質素・素朴でありますが、決して粗末な食事ではありません。「日本人の食事」は「素食」(基本的な食事)であって「粗食」ではないことをご承知おきください。この「素食」を続けていればメタボリック症候群にはなりません。

1000年前には何人の祖先がいたか
1000年という時間の長さはなかなか実感できません。そこでつぎのように考えてみましょう(図)。
私たちひとり1人に2人(21人)の親がいます(両親)。その母親と父親にもそれぞれ2人の親(祖父母)がいました。すなわち祖父母は4人(22人)です。その祖父母にもそれぞれ2人の親がいました。曾祖父母は8人(23人)、曾々祖父母は16人(24人)になります。ヒトはだいたい30歳位までに子どもをつくりますから1世代を30年としましょう。30年毎に祖先は倍々に増えます。1000年は33世代に相当します。したがって、1000年前には233人の祖先がいたことになります(約86億人)。1000年間に存在した私たちの祖先は21+22+・・・+233人になります(234-2=172億)。
日本人の食生活の原型が1000年前に成立したと仮定すれば、この食事は172億人の祖先が食べ続けてきたものです。日本人はこの食事で考え、遊び、仕事をしてきたのです。この食生活は、明治維新によって西洋文化が導入されても基本的に変わることはありませんでした。それが過去40年という短期間で一変してしまったのです。私たちは、今、172億もの先祖が食べ続けてきたものを捨てて、祖先が全く知らなかったものを食べるようになりました。
私たちの5代前の先祖(今から150年ほど前、江戸の終わりごろから明治の始め)が食べ物と認識していたものが日本人の食べ物です。そんなに昔でなくても、おじいさんかおばあさんがおいでだったら、戦前の普段の食事はどんなものだったかお聞きになってみてください。祝祭日などの特別な日にはご馳走が食卓に載ったでしょうが、普段はおそらく一汁一菜だったでしょうね。

 


ケ(褻)の食事とハレ(晴)の食事
どこの国でもお祭りや誕生日などの特別な日には普段とは違ったご馳走をつくります。日本にはふだん食べている食事を「ケ(褻)の食事」、冠婚祭などの特別な日に食べる豪華な食事を「ハレ(晴)の食事」として区別する文化があります(図)。

 

 

 

 

 

ケの食事(日常茶飯)は身近で手に入る穀物や野菜を中心にした「生きるための食事」です。地域によって食材・調理法に多少の違いはありますが基本的には「穀物+大豆+野菜(+魚介類)」からなる食事です(図)。
 ハレの食事は「楽しむための食事」と言ってもいいでしょう。毎日がケの食事では飽きるでしょう。たまには原始の血が騒ぎますね。こんな時は思いっきりご馳走を食べるのです。ハレの日は饗宴であり謝肉祭でもあります。


ケの食事(日常茶飯)の一例
私がふたん食べているものはこの写真のような「3分搗き米メシ」「みそ汁」「ぬか漬け」「目刺し」です。目刺しがサンマ・納豆になったり、漬け物がおひたし・油炒めになったりしますが、基本的には変わりません。この日常茶飯にかかる食費は1万5000円ほどです(図)。日常茶飯は「今晩は何をつくろうか」などと考える必要のない食事です。調理の下ごしらえに時間をかけないことですね。
いろいろな理由をつけて積極的に月に5-6回は「ハレの食事」にします。ハレの日には肉も高価な魚も食います。肉はブタ肉がほとんどですが、ときには牛肉も食います。100グラム200-300円で売られている牛肉は乳牛の肉ですから敬遠します。もったいないとは思いますが、月に1度程度のことですから1000円以上の牛肉にしています。ほとんどは家で腕を振るいますが、外食もけっこう楽しんでいます。古稀を過ぎれば毎日がハレの日になりますが、内容は簡素なものになるでしょうね。

穀物食「穀物+大豆+野菜(+魚介類)」の威力

蓮如は、全身で親鸞に帰依して親鸞の教えを広め、巨大な本願寺教団をきずきあげたお坊さんですが、生涯に27人の子を設けています。何よりも驚嘆すべきは、72歳で5人目の妻を娶り、84歳で亡くなるまでにこの女性に7人の子どもを産ませたというエネルギーです。
1876(明治8)年に来日した医師・ベルツは、日本人の食生活と体力を観察して「肉食は瞬間的な大仕事には適しているが、それを継続する段になると植物性食物に及ばない」という結論に達しています。さらに、ベルツは、1901年のベルリンの医学会で行った講演で、「東京から日光までの110キロの道を、馬車で走ったときは、馬を6回取り替えて14時間かかったが、同じ道を54キロの男子を乗せた人力車は、車夫は一人で14時間半で走った」というエピソードを紹介し、日本の植物食が素晴らしい身体能力を発揮させることを伝えています。
カリフォルニア大学のオーニシュ博士は、「食生活を改めることによって冠動脈疾患が治る」という仮説を実証しています。その食事は、脂肪10%以下、タンパク質15-25%、糖質70-75%というベジタリアンの食事にほぼ近いものでした。この食事を1年続けた狭心症患者は、体重が減り、血清コレステロールも低下し、血管造影によって動脈硬化の改善が認められました。オーニシュ博士の研究は、脂身の少ない肉にする、ビーフをトリ肉にするというように食生活を少し変えるだけでは動脈硬化は変わらない(ときには悪化する)が、食生活をがらりと変える(ベジタリアンの食事)と動脈硬化が改善することを示したものでした。当然ですね。アメリカ人とて、もとをただせば、植物食を起原とする人類の一員なのですから。

日本人の食事が変わった!
日本の食文化にはウシの体液(乳汁)を飲むという習慣はありませんでした。もちろん、日本でも牛は飼われていました。しかし、日本の牛は農耕・運搬用であり、その乳汁を子牛に飲ませても、屠殺して食ってしまうなどということはしませんでした。このことはアジア・アフリカに共通しています(例外はあります)。牛乳をそのまま(全乳のこと。現在は減菌・滅菌している)飲むのは西洋人(皮膚の色の薄い人たち;コーカソイド)だけです。

 

一般の日本人が牛乳を飲むようになったのは1960年以降のことです。牛乳消費量は高度経済成長期の1960年代に入って急速に増えました(学校給食で粉ミルクに代わって牛乳が供されるようになったのは1964年)。1946年に1・13キログラムであった年間1人当たりの牛乳・乳製品の消費量は、1960年に12・0キロ、1970年に28・8キロ、1980年に42・0キロ、1990年に47・5キロとなり、2001年には62・1kgとなりました。2001年の消費量は1946年の実に55倍です(図1)。
日本人は長いこと、「妊婦が牛乳を飲まないと丈夫な子どもが生まれない」、「子どもが牛乳を飲まないと身長が伸びない」、「のどが渇いたら、水の代わりに牛乳を飲もう」、「歳をとって牛乳を飲まないと骨粗鬆症になる」、「足りない栄養素はカルシウムだけ」と思い込んでいましたから、日本の牛乳・乳製品の消費量が急増したのです(図)
反面、日本人の主食であったコメの消費量が減りました。コメの増産に伴ってコメが十分に食べられるようになり、1959(昭和34)年には133・0kgと戦後最大の消費量を示しました。その後、日本人はだんだんコメを食べなくなり、2000年には58・5kgとなりました。現在の日本人はコメをよく食べていた1959年に比べると、その半分にも満たないコメしか食べていません。わずか1世代という短期間に食生活をこんなに大きく変えた民族は他に例をみません(動物性食品の増加と穀類の減少)。1億人を対象にした壮大な人体実験が行われたのです(図)。戦後の日本人に起こったことにはすべて、この食生活の変化が多少とも関わりをもっています。

日本人は何を食べたらよいか
日本人の身体に一番適っているのは日本人が昔から食べ続けてきたもので、「穀物+大豆+野菜(+魚介類)」からなる「糖質中心の食事」です。このような食事は糖尿病を予防するだけではありません。糖尿病の治療にも最適です。栄養素の割合でいうと、糖質75%、タンパク質15%、脂肪10%になります。糖質ということばが誤解を生むかもしれません。糖質は炭水化物のことで米の主成分です。

 

 

玄米と白米
玄米(げんまい)は、稲の籾殻をとった状態の精白されていない米です。

 

 

 

 

 

 

 

 

生きているから、水につければ芽が出て稲に育ちます(図)。玄米を精米して糠と胚芽を除いたものが白米ですが、一般に、穀物を精白した際に出る果皮・種皮・胚芽の混合物を糠と呼んでいます。米の康(すこやか・やすらか)な部分を意味する糠という文字は面白いですね。この糠を含んでいる玄米は完全食品です。白米だけでは生きられませんが、人間は玄米だけで生きてゆくことができます。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


糖質の減少が糖尿病を招く
 「食生活の欧米化で糖尿病が増えた」と言われますが、事実はまことに奇妙で、日本人が穀物(=糖質)を食べなくなったので糖尿病が増えたのです。この点に関しては、綜合臨床56巻1号(永井書店、2007年1月)に掲載された「糖質の減少が糖尿病を招く?」をお読みください。
 なぜ、糖質が少ないと糖尿病になってしまうのか、その詳細については食に関する一日一話(2)〜糖尿尿〜をご覧ください。

穀物食(高糖質食)はインスリンの効き目をよくする
私たちの研究に基づく穀物食の効果をまとめておきます(左図)。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


まず、穀物食の最大の長所はメタボリック症候群の根底をなす肥満が予防できるということです。「穀物食(高糖質食)」→「インスリンの効き目がよくなる」→「少ないインスリンで心身が活動する」→「インスリンの分泌が少なくなる」→「肥らない」のです(右図)。
一時期「低インスリンダイエット」というおかしな痩身法が流行しました。インスリンの分泌が少なければ肥らないという主張は正しいのですが、グライセミック・インデックス(グリセミック・インデックス、GI)に基づいたダイエット法は危険です。GIはブドウ糖50グラムを含む水溶液で上昇する血糖値(実際は2時間までの血糖曲線下面積)を100としていろいろな食品の血糖値の上昇率を数値化したものです。GIの低い食品を摂っていればインスリンの分泌が少なくなるから肥らないだろうという考え方です。糖尿病の専門家ですらGIを勧める人がいます。まことに困ったことです。
肉や脂や乳製品のGIが低いのは当然です。たった2時間の血糖値に基づいて計算した数値であるということを忘れないでください。このような食品を3日や4日続けたからといってどうということはありません。体重が落ちることもあるでしょう。しかし、長期間にわたって肉・乳製品を食べ続ければ、「インスリンの効き目が悪くなる」→「身体がさらなるインスリンを要求する」→「インスリン分泌が増える」という結果になって「肥ってしまう」のです。くれぐれも、「低インスリンダイエット」というまやかしに騙されないでください。
高血圧の予防にはよく身体を動かすことと塩分を少なくすることです。「コメのメシ」の欠点はうま過ぎることです。おかずなしで食べられます。温かいメシなら塩を振るだけでも、醤油をかけても、味噌を添えるだけでも美味しくいただけます。おかずの塩味を薄くし、みそ汁もできる限り薄味にすることが肝要です。ダシをしっかりとれば薄味で十分ですし、辛いものが平気なら七色唐辛子を振れば結構なみそ汁になります。
 手のひらに少量の塩を振ってメシをにぎったおにぎりは美味ですが、コンビニ・スーパーのおむすび・おにぎりは美味しくありません。大量生産向きに塩を加えてメシを炊くからでしょう。塩味がきつ過ぎます。
短期間(1週間程度)の高糖質食では血清の中性脂肪が上昇しますが、長期(数ヶ月以上)にわたると中性脂肪が下がります。さらに悪玉といわれるLDL-コレステロールが下がり、善玉のHDL-コレステロールが増えます。すなわち、メタボリック症候群を予防する、あるいはすでに症候群と言われている人がその症状を改善するためには食生活をがらりと変えて穀類中心の食事にすることです。食生活を変えるだけでも効果がありますが、身体活動を増やすとさらに効果が大きくなります。電車・バスで通勤する人は一駅前で降りて歩く、電車・バスの中では座らないなど、日常生活の中で活動を増やすことです。

2型糖尿病の食事療法は穀物食(高糖質食)で
肉食の多い欧米で植物食のベジタリアンが増えています。穀類中心の植物食が2型糖尿病(成人型糖尿病とも呼ばれていました)の治療に有効で、血糖だけでなく、コレステロールや中性脂肪が下がります。たとえば、1994年にアメリカの糖尿病治療に関する有名な雑誌Diabetes Careに掲載された報告(参考文献1)はつぎのような内容です。652名の2型糖尿病患者に食事を脂肪10%、糖質75%の低脂肪/高糖質のベジタリアン食に変えるよう強力に指導して3週間後にどうなったかを調べました。食事改変によって血糖値が下がり、インスリン治療を受けていた212名のうち83名(39%)がインスリン不要となり、経口血糖降下薬を服用していた197名のうち140名(71%)が服薬を止めることができました。投薬を受けていなかった243名ではその73%(177名)の空腹時血糖値が140mg/dl以下に低下しました。それだけではありません。血圧が下がったのです。319名が降圧剤を服用していたのですが、108名(34%)が降圧剤を必要としないほどに血圧が下がりました。さらに、総コレステロールとLDL-コレステロールはともに22%下がり、中性脂肪は33%も低下しました。
この臨床試験では食事を変えると同時に運動量を多くするように指示されていました。したがって、糖尿病がよくなったのは食事を変えたからなのか、運動量が増えたからなのかはっきりしません。運動量を変えずに食事を低脂肪・高糖質のベジタリアン食にしたら2型糖尿病患者の症状がどうなるかを調べた研究があります(参考文献2)。この研究を少し詳しく紹介します。
2型糖尿病患者を無作為(ランダム)に2群に分けて、一方(49名)にベジタリアン食を、他方(50名)にアメリカ糖尿病協会(ADA)が推奨する食事を22週間にわたって食べてもらいました。22週間(5ヵ月)という介入試験の長さが驚きですね。参加者全員に普段の運動習慣を変えないよう要請しました。
ベジタリアン食はタンパク質15%、脂質10%、糖質75%で、穀物、豆類、野菜、果物を中心にした食事。どの食品についても食べる量を制限しませんでした。日本人なら「穀物+大豆+野菜+果物」を組み合わせて好きなだけ食べよといったところです。
一方、ADA食はタンパク質15-20%、飽和脂肪7%未満、コレステロール200mg/日以下、糖質と一価不飽和脂肪酸が60-70%という食事で、ガイドライン(参考文献3)にしたがって体重と血清脂質の測定値に基づいて個人ごとに摂取量を定め、エネルギー消費量を500-1000kcal減らすというカロリー制限を行いました。一人一人に適切なADA食をアドバイスするのは複雑な作業です。
1週間ごとに一度、参加者は医師・栄養士・調理師を交えて会合し、栄養と調理に関して指示を受けました。また、食事を変えてから4週、8週、13週、20週後に登録栄養士が予告なしに参加者全員に電話をかけて調査時点からさかのぼって24時間分の食物の摂取状況を調査しました。この電話調査は、参加者が所期の食事目標をどの程度守っているかを判断するとともに、新たな指示を与えるために行ったものです。これに加えて、第1週、11週、22週に3日間の食事記録を集めて栄養分析を行っています。
参加者は全員、それまで受けていた糖尿病の治療を継続するよう要請されました。ただし、血糖降下剤によって低血糖の症状が現れた場合には糖尿病の専門医が薬剤量を変更しました。
食事介入試験中の各種検査は0、11、22週後に行いましたが、いずれも最後の食事から12時間後の空腹時に行っています。

まず、ベジタリアン食群とADA食群の食事改変前のデータを表1に掲げます。アメリカの糖尿病患者には肥った人が多いですね。両群ともにBMI(体重[kg]を身長[m]の2乗で割った体格指数)が30を越える人が60%以上います。また、メトフォルミン(メトホルミン)やスルフォニルウレアなどの経口糖尿病薬を服用する人が多く、とくに70%の患者がメトホルミンを服用しています。
食事を変えてから22週間経って調べた結果では、エネルギー・タンパク質・糖質・脂肪摂取量が大きく変わりました(表2)。1日当たりのエネルギー消費量はベジタリアン食で1759から1427kcalへ、ADA食で1846から1391kcalへと減少しました。タンパク質摂取量はベジタリアン食で77から51gへと減り、ADA食で85から73gへと減少しました。

ベジタリアン食群の脂肪摂取量は72から30gへと大幅に減り、ADA食でも73から52gへと小幅ながら減っています。一方、ベジタリアン食群の糖質摂取量は205から251gに増えましたが、ADA食では213から165gへと減りました。
エネルギー・タンパク質・脂肪の摂取量の変化をベジタリアン食とADA食で比較しますと、ADA食群のエネルギーの減少量(25%減)はベジタリアン食群(19%減)を上回りましたが、両群の間に有意の差は認められません。両群の間で認められた最も大きな変化は糖質の摂取量でした。ベジタリアン食群では糖質摂取量が22%増えたのに対して、ADA食群では23%減少しました。
食事を変えてから、ADA食群でも50人中13人(26%)が低血糖を防ぐために血糖降下剤を減らしましたが、ベジタリアン食群では49人中21人(43%)もの患者が薬を減らしていました。すなわち、アメリカ糖尿病協会(ADA)が勧奨する食事療法(基本はカロリー制限)でも糖尿病の症状は改善しますが、ベジタリアン食にするとさらに効果が大きいことがわかります。ただし、食事を大きく変えても糖尿病治療薬の量を変えなかった患者がベジタリアン食群で24人、ADA食群で33人いました。
食事をベジタリアン食群あるいはADA食群に変えることによって糖尿病の症状(空腹時血糖、ヘモグロビンA1cなど)がどのように変わったかを表3で見てみます。食事を変えながら糖尿病治療薬の量を変えたのでは、最終結果が食事の変化によるものなのか薬の影響なのか判りませんので、表3は薬の量を変えなかったベジタリアン食の24人、ADA食の33人に関するデータです。食事を変えることによって、体重・BMI・腹囲・ヘモグロビンA1c・空腹時血糖が改善しています。ベジタリアン食によってヘモグロビンA1cがADA食より有意に大きく低下しています。

糖尿病患者で最も関心があるのはヘモグロビンA1cの低下でしょう。ベジタリアン食による低下とADA食による低下を比べて図にしました。ADA食(カロリー制限)でもヘモグロビンA1cは下がりますが、その低下の程度はわずかで11週で下げ止まっています。それに比べて、ベジタリアン食ではより急速にA1cが下がり、22週になっても低下はなお続いています。
食事を変えた22週間の間、脂質降下薬の量が変化しなかった糖尿病患者はベジタリアン食で39人、ADA食で41人いました。この人たちについて、食事の変化が血漿脂質に与えた影響を比較した結果を表4に示します。ベジタリアン食に切り替えた糖尿病患者では、総コレステロール・HDLコレステロール・LDLコレステロール・VLDLコレステロール・中性脂肪のすべてが望ましい方向に有意に変化しました。一方、ADA食で血漿脂質が有意に低下したのは総コレステロールとLDLコレステロールの2項目だけでした。総コレステロールとLDLコレステロールはADA食よりもベジタリアン食によって有意に大きな低下が起こっています。ベジタリアン食は血糖コントロールに有効なだけではありません。動脈硬化の原因となる脂質代謝異常の修復にも極めて有効です。
ベジタリアン食は糖尿病に有効です。日本の糖尿病患者は一刻も早く「穀物+大豆+野菜(+魚)」の日本型ベジタリアン食に切り替えることです。昔から食べていた食事にするだけですから、日本人には容易です。しかも食べる量を制限する必要がないのです。「穀物+大豆+野菜(+魚)」の食事はそんなにたくさん食べられるものではありません。

食事をベジタリアン食にするだけでも糖尿病や脂質代謝異常(すなわちメタボリック症候群)の予防と治療に効果がありますが、これに身体活動(運動)を組み合わせるとその効果は抜群です。
参考文献1
Barnard RJ, Jung T, Inkeles SB. Diet and exercise in the treatment of NIDDM. The need for early emphasis. Diabetes Care 17: 1469-1472, 1994.
参考文献2
Barnard ND, Cohen J, Jenkins DJ, Turner-McGrievy G, Gloede L, Jaster B, Seidl K, Green AA, Talpers S. A low-fat vegan diet improves glycemic control and cardiovascular risk factors in a randomized clinical trial in individuals with type 2 diabetes. Diabetes Care 29(8): 1777-1783, 2006.
参考文献3
Franz MJ, Bantle JP, Beebe CA, Brunzell JD, Chiasson JL, Garg A, Holzmeister LA, Hoogwerf B, Mayer-Davis E, Mooradian AD, Purnell JQ, Wheeler M; American Diabetes Association. Evidence-based nutrition principles and recommendations for the treatment and prevention of diabetes and related complications. Diabetes Care 26 (Suppl 1): S51-61, 2003.

日本とアメリカ
アメリカにおけるがん(肺がん・乳がん・前立腺がん・大腸がん)や心筋梗塞の発生率が日本に比べると圧倒的に多いということはご存知ですね。例として男の前立腺がんと女の乳がんの発生率を図に示します。縦軸に発生率、横軸に年齢を目盛りました。前立腺がんも乳がんもホルモン依存性の悪性腫瘍です。これらが日本に比べて圧倒的にアメリカに多いということを再認識していただけると思います。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


この違いが日本人とアメリカ人の遺伝的な差によるものではないことは、アメリカに移住した日本人のがんの発生率がアメリカ人並みになるという移民研究で明らかです。こんなに大きく異なる理由は唯一つ、日常的に食べているものが日本とアメリカで違うからです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


このアメリカでも1990年ごろからがんや心筋梗塞による死亡が減少しています。アメリカ人が少しずつ自分たちの食生活を変えつつあるのです。肉や乳製品に替えて穀物や野菜を食べる人が増えました。2006年10月に2日間、延べ10人のアメリカ人と朝食をともにしましたが、パンにバターを塗った人は一人もいませんでした。みんなジャムあるいは蜂蜜でパンを食べていました。上図は一人一日あたりの穀物消費量(左)と野菜消費量(右)の日米比較です。最近ではアメリカの穀物消費量が日本に追いつきつつあります。野菜にいたっては、すでにアメリカが日本を追い越しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

卵はすでに1970年代から日本人の方がアメリカ人よりたくさん食べるようになりました(図左)。しかし、依然としてアメリカ人の消費量が日本に比べて圧倒的に多い食品があります。乳・乳製品です(図右)。乳・乳製品は日本人にとっては単なる嗜好品に過ぎませんが、アメリカ人にとっては伝統的な食文化を構成する食品の一つです。アメリカの前立腺がんや乳がんは彼らの文化に起因する病気と言ってよいでしょう。

まとめ(図)
日本の食料自給率(カロリーベース)は40%といわれています。今、日本でご馳走というと、肉・卵・高級魚をふんだんに使った料理を意味しますね。自給率が低くなったのは日本人が肉や卵や乳製品を食べるようになったからです。ウシやブタやニワトリに穀物を与えるからウシは牛乳を分泌し、ブタは肥り、ニワトリは卵を産むのです。日本は飼料穀物のほぼ全量を外国から輸入していますから、自給率が下がってしまったのです。
いずこの国民も同じですね。余裕ができると、肉や卵を食べるようになります。お隣の中国の人口は13億人です。中国人もやがて、日本人と同じように、年間250個の卵を食べるようになるでしょう。1羽のニワトリの年間産卵数を250個とすると、中国に少なくとも13億羽の採卵鶏が飼育されることになります。採卵鶏1羽に与える穀物を50g/日(正しいかどうか判りません)として、1日6・5万トン、年間2400万トンの穀物が必要となります。この数字がいかに大きいかは、日本のコメ生産量が年間1000万トンであることを考えればお分かりいただけると思います。電化製品や自動車を輸出していくら金を稼いでも、日本人が欲しい食糧を好きなだけ購入できるとは限らないのです。中国と激しい穀物獲得競争を繰り広げることになるでしょう。
大豆は穀物ではありませんが、日本では五穀の一つに数えるほどの基幹食品です。「大豆を作ろう」(http://daizuweb.job.affrc.go.jp/subindex.html)によると、日本は500万トンほどの大豆を消費していますが、そのうち国産は15万トン(3%)に過ぎません。消費される大豆のほとんどは製油・飼料に用いられています(380万トン)。食用になるのは味噌(17万トン)、醤油(3万トン)、豆腐・油揚(49万トン)、納豆(12万トン)、凍豆腐(3万トン)、その他(10万トン)の94万トンです。2004-5年の日本の大豆輸入は435万トンでしたが、中国は2500万トン(日本の5・7倍)も輸入しました。
日本人にとって牛乳はあってもなくてもよい農作物です。牧草地をもつ酪農家が1リットル1000円(グラム単価1円)の高品位牛乳(妊娠していない牛から搾った牛乳)を作れば十分こと足ります(図)。農林水産省の押し付けに応じて「高泌乳牛型酪農」(穀物を与えて乳量を増やす酪農)を行ってきた酪農家はいずれ方向転換を迫られることになるでしょう。
日本人の基幹食物(生命線)は「米+大豆」です。米と大豆があれば日本人は生きていけます。年間生産量を米1200万トン(1人当たり年間100キログラム、1日274グラム)、大豆120万トンに引き上げることは国の責任でしょう。米はともかく大豆は難しいでしょうが、農林水産省は大豆の生産拡大に税金を投入すべきです。国の政策転換によって、乳搾りの替わりに畑の肉(大豆)の生産に情熱を燃やす農家の出現を心から待ち望んでいます。
(おわり)